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ハイパーカジュアルゲームのパブリッシングに携わっていると、週に何百本単位で新しいゲームと出会い、マーケタビリティなどのテストすることができます。私はこの業務を通じて、どのようなゲームが市場に受け入れられるかについての客観的また一種の統計的な理解を深めてきました。当社を含めたゲーム関係者の誰もが、ゲーム開発に何カ月単位という長時間を費やしたにも関わらず、商業的には失敗したという経験を持ち合わせています。必ずしもゲーム自体が面白くなかったわけではなく、何かしたの理由でハイパーカジュアルゲームの一般的なユーザーとの相性が悪かったということが主な原因であると考えます。つまりマーケタビリティがないゆえに多くのユーザーに刺さらず、ユーザー獲得がスケールしなかったか、もしくはゲームプレイ自体に問題があり、リテンションが悪かったということでしょう。

これからモバイルゲームを検証、テスト、そしてリリースする際に犯しがちな過ちについて実例を交えて挙げていきたいと思います。ハイパーカジュアルゲームに限定した話であることにご留意ください。まずハイパーカジュアルゲームは極めて容易に開発できる代物であるという誤った認識が広まっているように感じます。このジャンルには固有の特徴があることは確かですが、実際のところはAAA(トリプルA)と格付けされた大手ゲーム企業が開発したゲームのマイクロ版と考えて支障ありません。つまりハイパーカジュアルゲームの開発は、ゲームデベロッパーやデザイナーが技術を培い、そして向上させる絶好の機会であると言っていいでしょう。さらに、ハイパーカジュアルゲームはトップ無料チャートの多数を占めており、決して看過できない市場規模を有しています。ところが、ハイパーカジュアルゲーム開発で複数のタイトルを成功させた企業はごくわずかです。ハイパーカジュアルゲームでの成功が難しいことを示す何よりもの証左だと思います。

分かりやすいゲーム設計が鍵に

ユーザー層がより限定されているほかのジャンルに比べて(例えばハードコアゲームのユーザーの61%は13歳から23歳の若者です)、ハイパーカジュアルゲームはいわゆるゲーマー以外を含めた多様なユーザーを対象とすることに特徴があります。だからこそより広い層に身近に感じてもらい、そしてエンゲージメントしやすい構造にしなければならないのです。つまりゲーム設計はできる限り分かりやすいものでなければなりません。

「分かりやすい設計」にするためには、ミニマリズムを追求し、複雑な要素を省く必要があります。「Hide N Seek」というかくれんぼをテーマとしたゲームを例に挙げましょう。このゲームを初めて目にしたとき、大きな可能性を秘めていることが分かりました。ただし、ゲームエリアが大きすぎるという課題にも気付きました。かくれんぼは確かに面白いコンセプトではありますが、野原や海辺といった広大なスペースでかくれんぼをすると、見つける方は難しく、隠れるのは容易い。つまりカジュアルゲームには相応しくないのです。この事例から得られた教訓は二つ。まずはゲームエリアを縮小することを目的として、迷路を舞台とすることにしました。またプロトタイプでは農場のレイアウトでのCPIが最も良かったので、リニューアル後の迷路のレイアウトにおいても色彩要素などを同様のものとしました。その結果、既に低かったCPIはさらに50%低下し、1日目のリテンションは30%から50%に向上、プレー時間は33%増大しました。やはり、手に取りやすく、すぐにプレイ方法を理解できるゲームが成功しやすい傾向にあります。

下記の画像は、Hide N Seekに加えた変更を示したものです。

こだわるべきは自分ではなくユーザーの気持ち

ゲームデベロッパーには芸術家のような習性があり、自分たちが納得するものを創作したがる傾向があります。ただし、何百万人単位の人々の関心を集めてそして維持しなければならないゲームの開発に際しては、自らのこだわりを一旦捨てて、プレーヤーの気持ちに思いをはせる必要があります。私はこれまで構想は素晴らしいにも関わらず、現実においては失敗するというゲーム開発の事例を数多く目にしてきました。それらの事例を通じて得た教訓とは「私やゲームデベロッパー及びデザイナーの好き嫌いよりも大切なことがある」ということです。

なぜならば、ゲームの世界では、様々なユーザーが抱く感情こそが重要な位置を占めるからです。ゲームの美学よりも、ゲームのユーザーがどんな感情を抱くかについて頭をめぐらせなければなりません。試練、特別な体験、満足感などといった肯定的な感情を呼び起こす要素に注力しましょう。

そのためには、世の中のあらゆる事象に目を向けなければなりません。多くのゲームは他のゲームを真似てばかりで、外の世界での出来事に十分に気を配っていないように感じます。市場調査を通じてトレンドを把握しましょう。YouTube、Instagram、TikTokを通じてソーシャルトレンドを把握することができるかもしれません。もちろん最も重要なのはゲーム分野における流行です。

まずはサブジャンルごとの流行を分析することをお勧めします。ハイパーカジュアルゲームにおける「プラットフォーム/ランナー型ゲーム」の形態の一つとしてアドベンチャーゲームというジャンルがあります。その中には「Jelly Shift」や「Sky Roller」のようにキャラクターは動かさずに一つのボタンで操作を続けるものもあれば、「Samurai Flash」や 「Join Clash」のように同じく一つのボタン操作でキャラクターを自由に動き回せることができるものもあります。これらのゲームはすべて各サブジャンルにおける成功モデルを踏襲したものです。つまりある特定のジャンルそしてサブジャンルに属するゲームの成功要因を分析し、それを異なる操作やプレー方法またはゲーム環境に適用させてみるのです。もしくはミッドコアゲームの設計をより容易にするなどして「ハイパーカジュアルゲーム仕様」にしてみるという手法もあり得るでしょう。

ゲームの「片づけコンサルタント」が必要

散らかっているものを好きな人はいないでしょう。特に誰かの関心を引きこみ、集中してもらいたいとき、乱雑な様子はネガティブに作用するでしょう。私はデベロッパーに対して「シンプルであればあるほど良い」と繰り返し伝えています。ちなみに前職時代、とあるゲームの改修を開発者と共に行いました。その中で、ゲーム内の整理整頓を行い、より容易にかつ分かりやすくし、ユーザーがゲームに集中できる環境を整備すること最優先課題として取り組み、継続的な改修を実施していました。そのゲームは最終的にヒットチャートの1位となって商業的に大成功を収め、それから1年が経過した現在も人気を集め続けています。

完璧主義はものごとを完璧にしない

以上の点を踏まえた上で、必要最小限の機能を持つ製品の開発を優先するいわゆるMVP (Minimum Viable Product) 戦略の重要性について述べたいと思います。ハイパーカジュアルゲームにとって必要なのは「超MVP戦略」です。何カ月にも及ぶ努力を経てリリースしたゲームが商業的に失敗するという憂き目に遭うのは誰でも嫌でしょう。だからこそ、トレンドが把握出来次第、市場の反応を見るためにゲームの暫定版を素早く作ってしまうことが重要なのです。レベル数は15ほどで十分です。とにかくできるだけ早くPDCAを回すことを心掛けましょう。

最後に一言

ゲームの開発及びパブリッシングにおいて、非常に多くの検討事項があります。ゲーム構造はミニマリズムを追求しつつ、ユーザーとエンゲージしなければいけません。デザインは洗練されたものではなくてはなりませんが、仰々しくなっては逆効果です。要するに、バランスの取れたフローとリズムの確立が成功への鍵となります。

もちろんそれぞれのゲームによって事情は様々であり、それらの違いは数値に現れます。それぞれのKPIの達成状況に応じて、変更すべき部分が変わってくるでしょう。ハイパーカジュアルゲームの良いところは、市場の評価が数値によって明確に示されるということです。ユーザーからのフィードバックの中にすべての疑問に対する答えが詰まっているはずです。

(作者:トム・ゲラー、ゲームデザイナー主任、Supersonic)

 

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